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東京高等裁判所 昭和49年(行コ)48号 判決 1976年4月15日

東京都青梅市黒沢二丁目八四九番地

控訴人

柳内一雄

右訴訟代理人弁護士

中村高一

中村護

小野允雄

榎本孝芳

石川隆

同都青梅市東青梅四丁目一三番四号

被控訴人

青梅税務署長

斎藤五郎

右訴訟代理人弁護士

今井文雄

右指定代理人

平塚慶明

石井寛忠

鈴木照吉

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人が控訴人の昭和三八年分、昭和三九年分、昭和四〇年分の各所得税について、昭和四一年一二月二〇日付をもつてした各更正処分及び重加算税賦課決定処分(ただし、昭和四〇年分については裁決により総所得金額、所得税額、重加算税額のいずれも減額されたもの)を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述及び証拠関係は、次に附加訂正するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人)

一、原判決書二二枚目表一〇行目中「ではない。」の下に「控訴人の預貯金口座への入金には、昭和三八年ないし四〇年を通じて、(い)控訴人が昭和三四年から昭和三七年まで営んでいた木材商の在庫木材を昭和三八年以後売りさばいた売却代金の入金、(ろ)昭和四〇年の不動産業での不動産売却代金の入金、(は)他の口座からの振替入金、(に)手形割引を依頼され、あらかじめ現金を用意しておいたが、持つて来られた手形が危険なため割引をことわり、用意した右現金を預金口座に入金、(ほ)定期預金の解約入金、配当入金、(へ)金融機関からの借入入金などが含まれている。また、昭和三八年中における平均貸付利率は、日歩八銭である。」を加え、二六枚目表八行目九行目の記載を「従前右貸倒れを主張していたが、その主張を撤回する。」に改める。

二、甲第六ないし八号証、第四四、四五号証を提出し、当審における証人村山宗太郎、同畠山茂、同坪根忠義、同児玉義則の各証言及び控訴人尋問の結果を援用し、乙第一号証の一ないし一〇(現金出納帳の写)の成立に関する認否を「原本の存在・成立ともに否認し、写の成立は不知」と改め、乙第二七号証の成立を認め、乙第二六号証、第二八号証の一ないし四、第二九、三〇号証についてはいずれもその原本の存在・成立を認める。

(被控訴人)

一、原判決書一七枚目表六行目中「否認したものである。」の下に「更にふえんすれば、控訴人が富士産業から受取つたと称する約束手形は、振出人武蔵野興業株式会社専務取締役柳内一雄、支払地東京都青梅市、支払場所東京都民銀行青梅支店と記載された手形(甲第二二号証)であるが、同手形は振出人名からみて武蔵野興業振出しの手形ではなく控訴人が振出したものであると認められる。したがつて、控訴人が振出した手形を本人自らが割引いたこととなり不自然である。仮に、武蔵野興業が右手形を振出したものであるとすると、一般に振出人は代表権を有する取締役名でなければならないこと、また控訴人は昭和三八年七月一日付けで武蔵野興業の取締役に就任し、右手形の支払銀行である東京都民銀行青梅支店には同法人の預金口座が設定されていなかつたことから、右手形の振出人名は不自然であり、そのうえ当然に不渡りになることは控訴人も充分に承知していたといわざるを得ない。したがつて、当然に不渡りになることが明らかな本件手形を控訴人が割引することはあり得ず、その企図するところは、控訴人の貸倒金を過大に計上するため、控訴人が武蔵野興業の専務取締役の地位を利用して架空の手形を作成したものである。」を、一七枚目裏六行目中「武蔵野興業は、」の下に「当時営業中であり、」を各加える。

二、同一八枚目裏一行目と二行目の間に「また、控訴人は、武蔵野興業の会計担当専務取締役の地位を利用し、武蔵野興業に対する右債権四〇〇万円の担保として、同法人が保管中の株式会社大和土木コンサルタントから受領していた商業手形(支払期日白地、支払地東京都豊島区、支払場所常盤相互銀行池袋支店、振出人東京都豊島区堀の内五三佐藤久及び横浜市鶴見区矢向町三枝啓悦、受取人白地)額面金額一〇〇万円五通及び額面金額三二万円一通を取得した。その後控訴人は、右手形額面合計五三二万円のうち一〇〇万円については振出人佐藤久から支払を受け決済を了したが、残金の四三二万円はその支払を受けられなかつたので、当該残余手形債権につき大和土木コンサルタントの株券(額面金額四〇〇万円)を佐藤久から譲受け、大和土木コンサルタントの相談役に就任し、もつて右債権の回収をはかつた。したがつて、控訴人は、武蔵野興業に対する債権四〇〇万円の担保として、ギフトセンター葵振出しの約束手形のほかに大和土木コンサルタント佐藤久ら振出しの額面合計金額五三二万円の約束手形をも取得し、その全額を回収したのであるから、何ら貸倒れの事実はなかつたことになる。しかるに、控訴人は、右担保として取得した大和土木コンサルタント佐藤久ら振出しの約束手形五三二万円のうち、四三二万円についても貸倒金に計上申告し、これを原処分(審査裁決による)も認めているが、本来これを認めるべきものではなかつたのである。更に控訴人は、右武蔵野興業に対する四〇〇万円を貸倒金として必要経費に加算することを主張するが、これは実在しない貸倒金を二重に必要経費として計上することを求めるものといわざるを得ない。」を加える。

三、同一八枚目裏六行目から一九枚目表三行目までの記載を「控訴人が当審において右債権貸倒れの主張を撤回したとおり、右貸倒れの事実はない。」に改める。

四、同二〇枚目裏四行目と五行目の間に、次の一項(第5項)を加える。

5 被控訴人の予備的主張について

控訴人の昭和三八年分同三九年分及び同四〇年分の所得金額を再計算すると実は次のとおりとなり、いずれも本件更正処分の課税標準は右所得金額の範囲内であるので、被控訴人は被控訴人のなした本件係争年の更正処分の適法性について次のとおり予備的主張を付加する。

(一)  昭和四〇年分の貸倒金について

(1) 控訴人は、前記3の(六)の外に武蔵野興業振出しの次の額面合計金額七三四万五〇〇〇円の約束手形(乙第二八号証の一ないし四)を取得し、当該手形も不渡りになつたとして同額を貸倒金に計上し申告している。

<省略>

(2) しかしながら、次の理由により右約束手形四通額面合計金額七三四万五〇〇〇円は貸倒れを仮装するため振出されたものと認められ、控訴人が前記3の(六)の(3)で述べた武蔵野興業(株)に対する債権四〇〇万円以外に実際に手形貸付けを行つたものであるという事実は認められない。

(い) 控訴人は、昭和三八年七月一日付けで武蔵野興業の会計担当専務取締役に就任したが、就任当時から同法人の経営状況は火の車であり、右手形の振出当時も同様の状況であつて、同法人の経営状態は円滑ではなかつた。

(ろ) 控訴人が武蔵野興業の専務取締役就任時における控訴人の同法人に対する債権残高は五〇〇万円ないし六〇〇万円ぐらいであり、その後右状況から貸付けは警戒していたから増加していなかつた。

(は) 控訴人は、手形担保の金融業であることから、その貸付けは小口貸付け(二〇万円前後)が多く、大口貸付けとしても一貸付け先当り最高二〇〇万ないし三〇〇万円を越える貸付けはなく(原判決の別表参照)、例外と思われる貸付けは牧柴茂行に対する貸金六〇〇万円にすぎず、これについては同人の土地及び家屋を担保に徴して債権保全を計つている。しかるに武蔵野興業に対する右貸金とされている七三四万五〇〇〇円については、控訴人は同法人の経営内容を充分承知しており、そのうえ控訴人にとつては多額な貸付けであるにもかかわらず無担保で貸付けすることは不自然であり、また通常の貸金業者が行う貸付行為と認め難い。

(に) 控訴人は、貸付けする際は通常は預金を引出して貸付けを行つているにもかかわらず、右武蔵野興業に対する貸金とされている七三四万五〇〇〇円については控訴人の預金口座から当該金員を引出した形跡がない。

(ほ) 前記手形四通は、いずれも控訴人が振出人の専務取締役に就任後に振出されたものであり、このうち昭和三九年一月二〇日付け振出の金額二五四万五〇〇〇円の手形(乙第二八号証の四)については、振出人「武蔵野興業株式会社取締役社長井手口正」と記載されている。

しかしながら、井手口正は、同法人の取締役社長に就任した事実はなく(乙第二七号証によると当該事項は錯誤抹消されている。)不自然な振出人名である。

また、これら手形四通の振出日は、昭和三八年一〇月一五日、同年一一月一〇日、同年一一月三〇日及び昭和三九年一月二〇日付けであり、右振出日当時は既に武蔵野興業は銀行取引停止を受けていた。

(へ) したがつて、前記(い)ないし(ほ)の事実及び控訴人が武蔵野興業の会計担当の常勤専務取締役であつて、同法人の内部事情に精通した者であつたことを考えあわせると、右手形四通額面合計金額七三四万五〇〇〇円は、当該手形の振出当時から不自然であり、かつ、不渡りになることは充分に予知されていたところである。これは、控訴人が既に銀行取引停止を受けた武蔵野興業の振出手形を作成し、その手形を当該支払銀行へ取立て依頼をし、支払拒絶の形跡を残すことによつてあたかも貸付金があり、それが貸倒れになつたごとく仮装したものと言わざるを得ない。

(3) したがつて、武蔵野興業に対する貸倒金七三四万五〇〇〇円及び(株)大和土木コンサルタント佐藤久に対する貸倒金四三二万円については、前記5の(一)の(2)及び3の(六)の(3)で述べたごとく、その貸付事実が存在しないし、また、貸倒金も発生しない。

ところで、控訴人は、昭和四〇年分の貸倒金として一七七〇万四五〇〇円を確定申告書に計上し申告した。このうち被控訴人が原処分で貸倒金を認容しているものは、次のとおり合計一三三八万円である(審査裁決及び第一審判決を含む)。

<省略>

しかし、控訴人の昭和四〇年分の正当な貸倒金は、小野吉久に係る一〇〇万円及び栗山産業に係る七一万五〇〇〇円合計一七一万五〇〇〇円である。そうすると、被控訴人は、原処分において否認しなかつた昭和四〇年分の貸倒金一三三八万円のうち一一六六万五〇〇〇円は貸倒金と認められず同年度分の所得に加算すべきものである。

(二)  貸金利息収入金額について

前述のとおり控訴人の武蔵野興業に対する貸倒金七三四万五〇〇〇円及び大和コンサルタント佐藤久に対する貸倒金四三二万円合計一一六六万五〇〇〇円は、その貸付事実が認められないこと、及び控訴人は前記3の(六)の(3)で述べたとおり大和土木コンサルタント佐藤久から一〇〇万円の金員を収受している事実を踏まえて、控訴人の貸金利息収入金額を算出すると昭和三八年分及び同三九年分のそれらは、前記3の(一)ないし(三)の推計による利息収入金額に次の金額が加算ないしは減算される。

(1) 昭和三八年分

(加算)

一〇〇万円 大和土木コンサルタント佐藤久から収受

(減算)

一一万八五〇〇円 武蔵野興業に対する貸金五〇万×一〇銭×七九日

佐藤久に対する貸金一〇〇万×一〇銭×七九日

(2) 昭和三九年分

(減算)

五六万六〇三五円 武蔵野興業に対する貸金六八四万五〇〇〇×一〇銭×七九日

佐藤久に対する貸金三二万×一〇銭×七九日

(三) 総所得金額について

以上のことから、控訴人の昭和三八年分、同三九年分、及び同四〇年分の総所得金額は次表のとおりいずれも本件更正処分の課税標準額より上回る。

<省略>

理由

一、当裁判所は、控訴人の本訴請求は失当であり棄却されるべきであると判断するが、その理由は、次に附加訂正するほか、原判決の理由と同一であるから、これを引用する。

(一)  原判決書二九枚目表初行中「村山宗太郎」の下に「(原審および当審)と証人畠山茂(当審)」を、同行中「の証言」の下に「ならびに弁論の全趣旨(とくに控訴本人の原審第一六回準備手続期日における陳述参照)」を、同行中「によつて」の下に「原本の存在と」を、二行目中「一〇および」の下に「いずれも原審と当審における」を、同三三枚目表七行目中「九および」の下に「いずれも原審と当審における」を各加える。

(二)  同三五枚目表五行目、四一枚目裏六行目、四六枚目表四行目中それぞれ「相当である」の下に「(控訴人の当審における尋問の結果も右反証とするに足るものでない)」を各加える。

(三)  同五二枚目裏九行目、五三枚目裏二行目中それぞれ「二二号証および」の下に「当審における証人児玉義則の証言ならびに」を、それぞれ「尋問の結果」の下に「(原審および当審)」を各加える。

(四)  同五四枚目表末行中「しかし、」の下に「原本の存在と成立に争いのない乙第二六号証、第二九、三〇号証、」を、同裏初行中「証言」の下に「(原審および当審)」を、八行目中「からであること、」の下に「右に述べた決済のほか、控訴人は、武蔵野興業に対する右債権の担保として同会社が株式会社大和土木コンサルタントから受取つていた佐藤久、三枝啓悦ら振出にかかる金額各一〇〇万円の約束手形五通、金額三二万円の約束手形一通計六通の交付をもうけ、その所持人として佐藤久から内金一〇〇万円の支払をうけ、残りの四三二万円については更にその債権の担保として大和土木コンサルタントの全株式額面四〇〇万円の譲渡をうけてその支払の確保をしながら、右四三二万円全額につきこれを昭和四〇年度の確定申告に際し貸倒金に計上申告し、審査裁決を経た本件更正処分においてもこれを貸倒金として認められているので、この点からしてもギフトセンター葵に対する約束手形金債権を貸倒金として主張計上することは、二重の必要経費の計上を主張することとなり許されるべきでないこと、」を、同行中「認められ、」の下に「一部右認定に反する当審における証人児玉義則の証言および控訴人尋問の結果は前記認定に供した証拠ならびに原本の存在と成立に争いのない乙第二八号証の一ないし四と対比してにわかに措信しがたく、他に」を各加える。

(五)  同五五枚目表四行目から同裏四行目までを削り、裏六行目中「当事者間に争いのない」を「原処分が認めた」に改める。

二、すると、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がない。

よつて、本件控訴を棄却し、控訴費用は敗訴当事者の負担として主文のとおり判決する。

(裁判官 舘忠彦 裁判官 安井章 裁判長裁判官豊水道祐は退官のため署名捺印できない。裁判官 舘忠彦)

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